2024年度「材料表面の内部構造可視化技術i-MSEの実用化」補助事業 成果報告書
Contents
- 研究の概要
- 研究内容
①材料表面内部構造可視化のためのロバスト処理技術の開発
②様々な材料のi-MSE試験実施
③i-MSEと材料の硬さ等と組成との関係解明
④i-MSEと従来材料強度試験との相関性の解明 - 本研究にかかわる知財・発表論文等
- 補助事業に係る成果物
研究の概要
我々はサブミクロンオーダーで材料表面内部の構造を可視化する技術である visual i-MSE®を開発している.本研究では様々な試料に対し i-MSE法 を適用し,薄膜の強さの分析を行い,電子顕微鏡像,X線分析や他の強さ試験結果と照合することで i-MSE の有効性を明らかにする. i-MSE 法の測定結果が信頼できるのであれば, i-MSE 法の適用範囲の広さからも実用化が進むと期待できる.
実験により, i-MSE は,電子顕微鏡像では捉えることの難しい皮膜-基材間の中間層の存在と強さを,X線分析結果と照合することで,正しく「見える化」できていることを明らかにした.また,塗装のような柔らかい皮膜に対しスクラッチ試験による強さの測定は困難であるが, i-MSE では測定と定量評価が可能であることを示した.
研究内容
①材料表面内部構造可視化のためのロバスト処理技術の開発
- 深さ2乗法
- 従来の可視化で発生する大深度領域における人工的なグラデーション(アーティファクト)を補正できた.ただし,副作用として表層で人工的なひずみが発生するため,100um以上の深い領域を可視化する際に特に有効な技術である.
- 従来の可視化で発生する大深度領域における人工的なグラデーション(アーティファクト)を補正できた.ただし,副作用として表層で人工的なひずみが発生するため,100um以上の深い領域を可視化する際に特に有効な技術である.
- 雑音除去フィルタ
- 実験の結果,フィルタ長は25程度で十分な雑音除去効果を得た.ただし,このような順序統計量フィルタの位相特性は非線形であることから,見た目の雑音は除去できても正しい強さ分布であるとは限らない.非線形フィルタを利用する場面は慎重に選ぶ必要がある.
- 実験の結果,フィルタ長は25程度で十分な雑音除去効果を得た.ただし,このような順序統計量フィルタの位相特性は非線形であることから,見た目の雑音は除去できても正しい強さ分布であるとは限らない.非線形フィルタを利用する場面は慎重に選ぶ必要がある.
- L1回帰器
- 実験の結果,L1回帰は従来のL2よりも外れ値の影響を抑えることができることが分かった.ただし,ウインドウサイズが小さい場合はL2とほぼ同じ結果となり,サイズが大きい場合に有効である.
- 実験の結果,L1回帰は従来のL2よりも外れ値の影響を抑えることができることが分かった.ただし,ウインドウサイズが小さい場合はL2とほぼ同じ結果となり,サイズが大きい場合に有効である.
②様々な材料のi-MSE試験実施
- Fe酸化膜,Ni酸化膜,樹脂膜,TiC膜,金メッキ,電着塗装膜について, i-MSE 試験で得られた薄膜の強度分布断面像を示す.
③i-MSEと材料の硬さ等と組成との関係解明
超硬合金(WC-Co)上に形成されたTiC膜について, i-MSE 法による分析と電子顕微鏡およびX線分析結果を比較し,材料の硬さと組成の関係を調査した. i-MSE では皮膜と基材間に脆化層を確認できるのに対し,電子顕微鏡像では確認できないが,X線分析で脆化層の存在とその組成を確認できる.
純Ni上に形成された酸化膜について, i-MSE 法による分析とNi酸化膜の既存の性質について考察した.工業プラント等の高温かつ高速な流体に接する材料にはコーティングが施され,機械的な損傷と化学的な損傷の複合事象である腐食摩耗による破壊を防止する.酸化膜を利用する場合,一般に,摩耗耐性はFeO > NiOであることが知られている. i-MSE 分析の結果,皮膜そのものの強さは FeO < NiOである.しかしながら,NiOは皮膜と基材との間に弱い中間層が存在し,この中間層から破壊が進行しコーティングが一挙に剥離し,損傷が基材に到達すると考えられる.中間層は,コーティングのための酸化の初期に,Niが大気中の水分と反応して生成される水酸化物(Ni(OH)2)と推定される.こうして,中間層が無いFeOの方がNiOよりも総合的に強いと予想される.なお,NiOの中間層のX線分析はその薄さから困難であり,今後の検証が待たれる.
④i-MSEと従来材料強度試験との相関性の解明
- 金メッキおよび電着塗装膜の i-MSE 分析と従来の強度試験の一つであるスクラッチ試験結果を照合した. i-MSE 分析では,皮膜の強さは金メッキ > 電着塗装膜である.一方,スクラッチ試験結果ではこれらの柔らかい皮膜に対しては臨界荷重を明確に求めることができなかった.このように,従来の強度試験では測定が難しい弱い皮膜であっても i-MSE は強さを定量化できる.
本研究にかかわる知財・発表論文等
- 岩井 善郎,福間 慎治,高澤 拓也,”i-MSE法を用いた各種コーティング膜の界面強さ分布の可視化技術-サブマイクロメートルオーダの薄膜内部の解析事例,” トライボロジー会議(春),pp. 100-101,2024-05.
- 福間 慎治,岩井 善郎,”i-MSE法を用いた材料表面内部構造の画像可視化-酸化膜篇-,” 電子情報通信学会総合大会,C-6-01,pp.4,2025-03.
- Shinji Fukuma,Takuya Takazawa,Yoshiro Iwai,"An Image Based Evaluation of Coating of Eyeglass Frames by the i-MSE Method," 30th IEEE/ACIS International Conference on Software Engineering, Artificial Intelligence, Networking and Parallel/Distributed Computing, SNPD2025-Summer II, 2025-06 (投稿中)
補助事業に係る成果物
(1)補助事業により作成したもの
https://drive.google.com/file/d/1c_2mc-YlWMfnxO_bnnvzKr7K9rELfHvE/view